【新潟】HSP交流サークル

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いろいろ紹介⑩~ペパーミントの魔術師~

いろいろ紹介、今回はブギーポップシリーズの第6作目『ペパーミントの魔術師』です。

まずブギーポップシリーズとは、『ブギーポップは笑わない』から連なる上遠野浩平さんの小説で、今で言うラノベと呼ばれる作品ですが、初版が発行された1998年当時はまだライトノベルという枠組みがなく、その草分け的存在となった伝説的な小説でもあります。今でもシリーズは続いていて過去には実写映画化もされ、昨年は19年ぶり2度目のアニメ化もされました。

大まかな内容としては、ブギーポップ(不気味な泡)と呼ばれる正体不明な存在が、日常社会に潜む「世界の敵」と戦うお話です。これだけ聞くと変身ヒーロー物ですか?という感じですが、実際は様々な苦悩を抱えた登場人物たちが葛藤しながらも、それぞれの理想を求めて歩み続ける群青劇のようなお話です。ただ全体的に世界観が暗く陰鬱とした描写も多く、読み手を選ぶかもしれません。ちなみに主人公のブギーポップは物語の間にちょこちょこっと顔を出し、最終的にいいところだけ持っていく非常においしい役どころですので、基本的に全体の2割ぐらいしか出てこないと思って差し支えないかと思います。

そんなブギーポップの世界の中で私が一番好きなのが、第6作目にあたる『ペパーミントの魔術師』であり、主人公である軌川十助の栄光と挫折、そしてペパーミントの魔術師が誕生するまでを描いた作品です。
軌川十助はある巨大な組織に作られた合成人間と呼ばれる人造人間で、何かしらの超人的な特殊能力を持って作られたはずが、何の能力もないばかりか肌の色がペパーミントの色で生まれてしまった失敗作でした。本来であれば処分されるはずのところをある人物に引き取られ、その人の為に唯一の特技であったアイスクリームを作るという生活を送ります。しかしそんな平穏な時間は長くは続かず、その恩人が突然亡くなったことで組織から使者が送られてくるところから物語は始まります。
無力な失敗作たる軌川十助。しかし彼には彼自身も知らない秘められた能力がありました。それは相手の痛みを自分のものとして受け止め、それを癒すアイスクリームを作ることができるというもの。そんな十助のアイスクリームに、組織も世間の人々もそして十助自身も翻弄され、物語の終盤ついに十助の前にブギーポップが現れるのです。人は痛みがあるからこそ前に進むことができる。その痛みを失くしてしまう十助の能力は、一見これ以上ないぐらい穏やかだが、それゆえ最も危険な世界の敵になりえる者……。
ブギーポップと十助ことペパーミントの魔術師がどのような結末を迎えるのか、それはぜひ読んでみていただければと思います。

20年前にこのお話を読んだ時、私はとてつもない共感を覚えました。もうお分かりかもしれませんが、この人の痛みを自分のものとする能力、まるでHSPのようではないでしょうか。当時は当然HSPというものは知りませんでしたが、あの時十助に共感していた理由がこうやって説明できるものになるとは思いませんでした。しかしそうなると気になることもあります。それはHSPは『世界の敵』となりえるのかと言うことです。敵と言うとかなり過激な表現ですが、要するにそれだけ大きな影響力があるのかということですが、考え方によっては確かにそれぐらい有益な特性になるのかもしれません。例えば十助のような料理だけではなく、音楽や絵画などHSPの特性を人の心を癒す術に昇華している人も多いのではないでしょうか。もちろんそれが悪いことだとは思いません。ただ境目となるのは、癒すことのみを目的とせず、本当に相手の為になっているのかどうかを考えることができているか、ということなのかもしれません。

ちなみにこのブギーポップシリーズ、他にもたくさんシリーズがあり、中でも『パンドラ』や『ホーリィ&ゴースト』などがおすすめです。しかしどれも暗くて重めな話が多いので、体調が悪い時は読まない方がいいかもしれません。一応どれもハッピーエンドのようなかたちで落ち着きはしますが、物語の登場人物全員が救われるわけでもないので、それを理解した上で読んでいただければと思います。